沼津駅鉄道高架化事業再々論
二〇二五年の沼津市の財政事情、市民の負担・長谷川徳之輔
二〇二五年の沼津
沼津駅の鉄道高架化をはじめ駅周辺総合整備事業が完成するのは、今の計画でも二十年先の話で、二〇二五年と言われています。二十一世紀の経済社会の大きな構造変化が進む中で、二〇二五年に沼津の姿はどうなっているのか。鉄道高架化事業が市民にどのような恩恵と負担を生むのか考えてみましょう。
私は沼津を離れて五十年。今は東京暮らし。シニア世代になったのか、天下国家より身の回りのこと、故郷のことに関心があります。もうすぐ大学勤務も終え、五十年ぶりで沼津に帰ることになるでしょう。その時に、素晴らしい故郷が、住みやすいふるさと、温かい沼津であって欲しいと、つくづく思います。
今、沼津は鉄道高架化問題で大騒ぎのようですが、ただ市民が「賛成だ」「反対だ」と騒ぐだけでなく、そのメリットとデメリットを冷静に考えて、賛成派も反対派もよく話し合って、一番良い方法を見出したらいいのに、と思います。
聞くところによると、賛成派と反対派が別々に大会を開いて気勢を上げたということですが、一緒に大会を開いて大いに論じたらいいのに、なぜ別々に開くのか理解に苦しみます。肝心なことは、次の世代の生活の質が向上し、幸せになることを考えるという視点ではないでしょうか。私も専門家の一人として沼津の都市づくりには関心があり、沼津駅の鉄道跡地の利用についても、どうしたら良いのか自分なりに考えてきました。
沼津駅の鉄道高架化事業については、大きな時代の転換期にある今、激変する時代の中でどうあつたら良いのかを皆で考えることが大切ではないでしようか。
今、時代は大きく変化しており、二十一世紀は二十世紀の百年とは全く違う世の中になるでしょう。二十世紀、日本の人口は四千万人から一億二千七百万人へと三・二倍に増加し、沼津の人口も一九二〇年の七万四千人が九五年には二十一万人と七十五年の問に三倍に増えています。経済規模も五十倍になりました。
しかし、二十一世紀は少子高齢化社会だと言われます。確かに、日本の人口は百年先には四千万人と現在の三分の一になってしまうという予測もあります。政府の二十一世紀ビジョン、二〇三〇年の日本の経済社会を見通した予測では、今から二十五年先には人口は一千万人減り、五人に一人が七十五歳以上の高齢者となり、経済成長は、国民に増税を強いて歳出を維持しても、せいぜい一%台だと言われています。好むと好まざるにかかわらず、小さな効率的な政府を持つ以外に方法はないし、財政縮小は避けられないと思うしかないでしょう。
一一〇二五年の日本の姿高架化が完成する二〇二五年の日本は少子高齢化が進み、一億二千七百万人の人口が一億二千百一万人とマイナス六百万人、五・五%減少すると予測されています。大部分の地方都市で人口が減少することは避けられません。経済の分野でGDP(国内総生産)は人口減少によって鈍化しますが、「二〇三〇年の日本」によると、やや楽観的に見て、生産性の向上で一%の成長を維持すると、現在の五百兆円から一・二二倍の六百十兆円に増加し、国民所得三百七十八兆円から一・四一倍の五百三十五兆円、年率一・七%で増加するとされています。勤労者の標準的な年収は五百六十万円から八百五十万円へ一・五一倍、年率二・一%の伸びとなると言います。かなり楽観的な見通しですが、そうなることを期待したいものです。年金、医療、福祉などの社会保障費は現在、八十八兆五千億円で国民所得の二三・五%を占めているのが、一・七二倍の百五十二兆円になり、二八・五%にまでなると計算されています。
会社員の保険料負担が年収の一二%から一五・九%に増加し、税金でまかなう費用の増加分を消費税でまかなうと、消費税率が今の五%から一四%に引き上げることが必要になるということです。長期的に見ても、一千兆円の国と地方の国公債の返済を求められ、財政再建は必至であり、消費税などの増税と歳出削減は避けられず、特に公共事業費の大幅な低下が予想されます。緊急性や投資効果が乏しい公共事業の先行きは再検討を迫られ、沼津駅鉄道高架化事業が予定通り進められるかは不透明で、極めて難しい事態になるだろうと思います。
二〇二五年の沼津市の財政見通し
さて、故郷沼津の未来です。沼津市の人口は現在の二十一万人が二〇二五年、全国の地方都市で平均一〇%減少すると考えると、十八万人余に減少します。交通量も財政収入も人口減少分だけ減少する訳です。交通混雑も緩和され、沼津駅を南北に通行する自動車交通も当然に減少します。事業の投資効果も減り、もっと効率的な対策を考えなければならなくなるでしょう。問題は、果たして二十年の長期の投資計画に妥当性があるかどうかです。
まず、現在の財政事情を見てみましょう。沼津市のホームページによれば、平成十五年度の決算ベースで沼津市の財政規模は、一般会計歳入が六百六十四億円。このうち市税収入は三百三十五億円ですから財政規模の五〇・五%の五割自治です。肝心の市税(市民税、固定資産税)は九年度に三百七十七億円あったのですから、六年間で四十二億円、一一%の減少を示したことになります。現状では今後伸びる見込みは薄いでしょう。
十五年度の収入内訳は個人市民税が九十八億円、法人市民税が三十四億円で、市民税の合計は百三十二億円。また、固定資産税百五十五億円、都市計画税が三十億円で資産課税で百八十五億円。市債が六十四億円、その他の収入(補助金など)二百八十三億円を加えて六百六十四億円になっています。
一世帯当たり換算の市税額は四十二万円で、沼津市では、この年度の納税義務者一人当たりの平均収入は三百四十六万円ということですから、一世帯に一人の納税義務者だとして一世帯当たりの年収に占める税金負担率は一二・一%になります。他方、歳出は決算総額で六百二十五億円であり、民生費百四十四億円(構成比二三%)、教育費七十五億円(一二%)、衛生費七十六億円(一二%)%、土木費百二十七億円(二〇%)、その他二百三億円(三三%)となっています。二〇二五年の歳出見込みの予測は難しいですが、緊縮財政は継続し、人件費は抑制されて実質人件費は減少するでしょう。
二十年間、財政収入は増えず、公共事業費は頭打ち、新規事業は抑制されて、公共事業は維持・修繕中心にならざるを得ないでしよう。
そこで二〇二五年の財政構造を考えてみましよう。国並みに福祉・教育が重視され、その伸びも国並みとします。すると民生費(福祉、医療、介護など)は年二・.六%の増加で一・七二倍の二百四十八億円、教育費は年一%の増加で一・ニニ倍の九十二億円、衛生費(ごみ焼却、下水道など)も一%の増加で一・二二倍の九十三億円、土木費(道路、都市計画など)や、その他は伸び率ゼロで変わらず、全体では一・二倍の七百五十億円。
鉄道高架化は沼津駅周辺総合整備の中核をなすもので他の事業と一体として捉え、二十年間の工期で周辺総合整備事業費は千七百四十億円。沼津市の負担は六百二十五億円ということですから、年間支出は三十一億三千万円で、二〇二五年における一般会計の予測歳出に加えると七百八十一億三千万円で、一・二五倍になります。
他方、二〇二五年の財政収入は、経済成長に連動して市民税が一%の伸びで一・二二倍の百六十一億円、固定資産税も同様にして二百二十六億円、その他の収入は伸び率ゼロで、合計の財政収入は一・〇九倍の七百三十億円と見込まれます。
増税は必至、市民税負担が一・三四倍に
こうなると、歳入不足は七百八十一億三千万円から六百七十三億円を引いた百八億三千万円となり、収入の一六・一%に相当します。この額を市民税でまかなうと、市民税(個人、法人両市民税)と固定資産税(固定資産税、都市計画税〉の税額三百十七億円を四百二十五億円へ、一・三四倍に増額しなければなりません。一世帯当たりの負担額も四十二万円から一・三四倍の五十六万三千円に増加することになります。福祉、教育費以外は一切支出が増えない超緊縮財政でも、市民の負担は著しく大きくなることが予想されます。
従って、小さな政府にならざるをえず、大規模な長期事業を遂行するリスクは極めて大きいと言わざるを得ません。沼津市は十六年度にも百十一億円の市債を起こしており、元利償還金の歳出に占める割合は年々増加し、財政を圧迫することになります。「さらに、土地取得の特別会計で高架化事業のための用地取得に支出した額が優に百億円を超えており、その債務の返済も、これからの六百二十五億円の予算に加えて計上することが必要になります。
また、二十年先の負担については世代聞でどのような受益と負担があるのか、世代問の負担と受益の関係を明確にしなければなりません。
いずれにしても、沼津市は難しい事態になることが予想されますので、先を見通した適切な舵取りがぜひとも必要になります。(明海大学不動産学部教授、東京都目黒区)
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